ぼくはやっぱり、良い仕事というのは良い環境と必ずセットだと思うのです。それはカッコイイとかスタイリッシュとか、そういう表面的な“良い環境”ではなく、空調がなくても涼しい風がオフィスを抜ける、とか。雨の日でも窓を開けっ放しにできる、とか。デスクからミドリが見える、とか。天井が高くて気持ちいい、とか。隣りにすごいライバルがいる、尊敬できる上司がいる、とか。そういうことぜんぶひっくるめての環境ですね。
スタジオ・アアルト。まさにその、物理的な“良い環境”でした。
アルヴァ・アアルトの仕事場として建てられたのは1955年のこと。
敷地中央に扇形の中庭を取って、その余白をボリュームとして立ち上げた構成。中庭には敷地の高低差にあわせて、円形劇場のような段が設けられていて、色んな意味で建物の中心として機能しています。
それはもう、ずいぶん昔に設計された空間とは全く思えない心地よさと、たぶんほんとうの意味でのモダンな建物でした。決してリッチなマテリアルを使っているわけでもないし、規模も大きくない。建物として最小限の構成になっています。必要なものが必要な場所に、的確に配置されている。時折顔をだす、チャーミングな造形や家具がアクセント。そんな建物です。
外部に対して閉じ、中庭に向かって控えめに開かれた、湾曲した壁をもつホール。
長いスパンの構造と高い天井を持つスタジオ。光はハイサイドライトから。
とっても濃い密度でデザインされた、優しい空間。住宅とは違う、ばくっとしたスケール感も心地よく。その色褪せない新鮮さに、“良いもの”の根底に流れる不変の原理みたいなものを感じたのでした。
訪れたときはたまたま1人だったこともあって、ガイドのおばさんとっても丁寧な解説も聞くことができました。
テキスタイル・シーリング(布天井)と呼ばれていた場所。
ここではまた、いろんなことが試されてます。この布で覆われた天井もそうで、これは後に他の住宅で実践されています。他にも、太陽の光が差すミーティングルームのプレゼンテーション・ウォールなんていうのも、じわりと感動的でした。
こうやって、“実際に試す”というのは、とっても大切なんだなぁ。想像力の限界を補うのは、やっぱりヒトの「手」や「身体」なんだってこと。ブルース・リーの言った「Don't think, feel.」っていうのも、こういう風に解釈するとわりとロジカルに納得することができるんだよなぁ。
試行錯誤を、しなくちゃダメですね。
みなさんしてますか、試行錯誤。